
アベノミクスの金融政策を受けた日銀が『量的・質的金融緩和』を2013年に発表し、マネタリーベースが135兆円から2021年1月には606兆円にまで増加しています。
普段生活している中ではまず実感することのないマネタリーベースの増加。
前回、このマネタリーベースの増加は、
投資家だけでなく、日本の全国民の生活にも大きな影響を与える
とお話しさせていただきました。
『金融緩和』。投資家にしか縁のない言葉だと思いがちですが、じつは日本の全国民に影響を及ぼす、無視することできない政策です。
では『実際にどのように』、また『なぜ』国民の生活に影響するのでしょうか?
市場に流通するお金の量
マネタリーベースが増えたからと言って市場に出回るお金が同じように増えているわけではありません。
着目すべきは、市場に流れたお金の量です。

内訳を見て分かる通り、激増しているのは金融機関の日銀当座預金額です。
各金融機関の日銀当座にある預金は、『まだ誰の手元にも渡っていないお金』と捉えることができます。
対して『日本銀行券発行高』と『貨幣流通高』は、すでに金融機関を通り市場に流通しているお金、『すでに誰かの手元に渡ったお金』と表すことができます。
マネタリーベース全体からみれば小さな数字かもしれませんが、この『日本銀行券発行高』が、量的・質的金融緩和が発表された2013年1月から2019年1月の6年弱の間に、約30兆円、35%も増加しています。
ちなみに2021年1月発表のマネタリーベースの『日本銀行券発行高』は約116兆円なので、2019年からさらに約6兆円増加していることになります。
日本銀行:統計(マネタリーベース)より
この増加した『35%』
これはつまり、市場に流通したお金が35%増加したということです。
お金の量が増えることによる影響
市場に流通するお金の量が増えるとどうなるか。
明らかな『貨幣価値(お金の価値)の低下』です。
ジンバブエのハイパーインフレなどは記憶に新しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
あの事例では、元々不況だった経済状況下で度を越えて大量にお金を増刷したことにより貨幣価値が崩壊、大幅な低下を招きました。
その結果、食パン1斤の購入にもともと現地通貨で1Z$(ジンバブエ・ドル)あれば足りていたものが、3,000億Z$出さないと購入できなくなるという状況に陥りました。
ジンバブエが自国通貨を廃止 政策失敗でハイパーインフレ
ジンバブエのハイパーインフレなどは極端な例ではありますが、きっかけは何であれ、市場に流通するお金の量を増やすと、貨幣価値の低下が生じます。
『貨幣価値の低下』と簡単に言葉にしていますが、これには非常に大きな意味合いがあります。
物価の上昇ももちろんですが、
それは
『預貯金の価値も低下する』
ということです。
預貯金の価値の低下
仮に、100万円の預貯金があるとしましょう。
この100万円は、10年後も果たして今の100万円と同じ価値があるでしょうか。
アベノミクスの金融緩和を受けマネタリーベースが上昇、お金の流通量も上昇し市場に35%も多く出回るようになり、さらに今現在も上昇し続けています。
日本銀行:統計(マネタリーベース)より
先ほどまでお話ししていた通り、この状況が招くのは明らかな貨幣価値の低下です。
額面は同じ100万円ですが、インフレで貨幣価値が低下すると、もちろん100万円の価値はなくなります。
つまり、インフレ期は預貯金を増やそうと思えば思うほど、額面は増えてもその価値が目減りすることになります。
『リスクが無い』はあり得ない

- 定期預金はリスクが無い
昔からこう言われ続けています。
たしかに毎月決められた額で預金を続けていけば、元本を割り込む心配はないかもしれません。
あくまで『額面上』は。
ここで考えなければならないのは、
皆さんが日々必要としている『お金』は
- お金の額面上としての数字
- お金そのものの価値
このどちらなのか、ということです。
『インフレ期はお金の価値が低下する』というお話しを繰り返しさせていただいていますが、価値が低下するお金を貯金し続ける定期預金は、果たしてリスクが無い資産形成術だと言い切ることができるでしょうか。
拡大する貧富の格差
今回、マネタリーベースとお金の流通量のお話しをさせていただきました。
実感がない方も多いと思いますが、たしかに市場に出回っているお金の量はここ約7年で36%も上昇しています。
そして、実感がないということは、自分はその恩恵を受けることができていないということです。
では、増えた36%ものお金を利用し、このインフレの恩恵を受けることができているのはどのような方々でしょうか。
それは、
- アベノミクスの経済政策の狙いをいち早くキャッチし
- この時期にあった資産形成ができている
そんな方々です。
『卑怯だ』『不公平だ』
そんな意見があるかもしれませんが、これは日本が資本主義であるために生じる当然の構造でもあります。
考えてみてください。
- 自分の会社の特徴を理解して結果を出しながら仕事をする人
- 会社から言われた通りの仕事のみをこなす人
どちらも給料が同じ。
「公平」でしょうか?
私は逆に「不公平」に感じます。
『現状』は今までの自分の行動の結果であり、『自分のおかれた環境』を理解し、うまく利用して行動することで、『結果』がついてくる。
これこそが「公平」であると私は思っています。
これを日本の現状に言い換えると、
アベノミクスの経済政策の狙いをいち早くキャッチし、うまく利用したからこそ、今のインフレにあった資産形成ができている。
公平な結果です。
『アベノミクス』『金融緩和』『マネタリーベースの増加』
すべて、ニュースでも新聞でも誰の耳にも届くように「公平」に伝えられていました。
あとはそれを捉える側の問題です。
日本という国、政府の発進する情報を上手く捉え、利用して行動することができるように、しっかりとした知識を蓄えていきましょう。